● 『クローン人間』

神戸大学二年　西村聡一

☆本の趣旨≠クローン人間について

むしろ

ヒトクローンを含めたバイオテクノロジーのヒトへの応用

→“負の影響”

�@人体の資源化

　バイオテクノロジー＝生物の身体

　　　　ヒトへの応用↓

　　　　　　　　人体＝医療資源

＝産業資源

⇒日常生活における身体に向けられる“まなざし”の変質

�A優生学的な価値観の普及

優生学(eugenics)･･･人類の遺伝的素質を改善することを目的とする。悪質の遺伝形質を淘汰し、優良なものを保存することを研究する学問。

クローン人間作りを含む生殖技術には優生学的な価値観がどうしても入り込む

例．デザイナーベビー（体質、容貌等を注文どおりに決定されて生まれてくる）

⇒優生学的な方向性

本書の流れ

�Tクローン人間妊娠報道の流れ

�Uクローン技術やES細胞、再生医療についての基本的事実

�V（＊１）アンティノリたちに向けられている批判

�Wクローン技術の技術的限界

�Xアメリカの政策

�Y日本で始めてES細胞を樹立することが認められた経緯＋それに関する問題点

�[（＊２）ヒト胚の全般的取り扱いの国家的規制＋著者の見解

（＊１）アンティノリ＝イタリアの産婦人科医クローン人間を誕生させることを公言し、2002/11/26に翌年一月にヒトクローン個体が誕生すると発表した。

（＊２）著者の見解＝セラピューティック・クローンは行うべきではない

★クローン個体誕生に関する報道

2002/4/5

アンティノリ：*ヒトクローン個体（クローン人間）の妊娠に成功と発表（アラブ圏の裕福な男性のクローン）

＊ヒトクローン個体

クローンにしたいヒトの体細胞核を、徐核未受精卵に核移植し、女性の子宮に戻し妊娠させることで生まれる子供のことをさす

（＝女性の身体を資源の供給源としなければならない）

▲卵子提供者＝クローン人間計画に協力している女性

▲10人の女性にクローン胚を移植し、一人だけ着床

2002/4/27

パノス・ザボス（元アンティノリのパートナー）がアンティノリのクローン報道を否定。

2002/4/27

ザボス2002年末までにヒトクローン出産を試みると発表

2002/11/26

アンティノリ翌年一月にヒトクローン個体誕生と発表

2002/11/27

クローンエイド社同年12月にヒトクローン個体誕生と発表→12/26AFP通信に対し電話で「世界ではじめてヒトのクローン赤ちゃんを誕生させた」と語り翌日正式発表。

（不妊のアメリカ人女性。クローン赤ちゃんの名はイヴ）

⇒真偽は分からない（ヒトクローン胚の作成は成功率が低く、動物実験でも２〜３％）

では、クローン人間を妊娠しているという情報がどのように伝えられどのような言説を喚起されたのか？

○ クローン人間における問題点

▲ 先天的異常

▲ 代理母が癌になりやすい

（↑それを防ぐ方法が確立されれば無意味な批判）

☆不妊治療としてのクローン技術

弱者救済？or欲望拡大装置？

↑養子でないといけないのか？

　なぜ同じ遺伝子でないといけないのか？

⇒遺伝子決定論に基づいている

＝遺伝子の産業資源としての質

⇒◎優生思想

アンティノリ：「遺伝子検査で異常のある胚」は取り除くと明言。

パノス･ザボス：「失敗したら中絶する」

「失敗する」＝先天的障害

↑クローン動物は死亡率が高く先天障害を持つ場合が多い。

（ほぼ確実に遺伝子の発現に異常）

マスコミによる主な批判

：死亡率が高く先天障害があるのでクローン人間を作ってはだめだ。

…では、

▲ 技術の向上でその問題がクリアできるならOKなのか？

▲ それこそ優生学的な価値観を含んでいないか？

▲ ヒトクローン個体が作られることに対して騒ぎすぎではないか？（ヒト胚、ES細胞をめぐる問題が見えにくくなる）

◎ES細胞、セラピューティック・クローン

再生医療＝病気、怪我で失った組織や臓器の機能を回復させるために、本人または他人の細胞を取り出し培養して患者に移植する治療手段。ES細胞もそのうちのひとつ。

ES細胞（胚性肝細胞）

＝発生初期の胚（受精してから子宮に着床するまでの卵子）から作られ、あらゆる臓器に分化する「多能性」及び無限に増殖する「不死性」を兼ね備えている。

EG細胞＝ES細胞と同じ特徴を持つ。中絶胎児の原子生殖細胞から作る。

ES細胞の利点：目的の組織、臓器のみを作ることができる。拒絶反応が起きない（といわれている）。ドナーなき移植が可能。

問題点：胚を破壊せねばならない。ヒトクローン胚からも作られる。⇒倫理的問題

◎セラピューティック・クローン

セラピューティック･クローン＝ヒトクローン胚からES細胞を作り、それを分化させてできた組織を患者に移植する技術。

ヒトクローン胚＝通常のクローンと同様、除核未受精卵に患者の体細胞を核移植してできたもの。（2001年6月〜日本では作成自体禁止）

↑クローン胚なら受精卵（胚）を破壊しなくても良いが、沢山の除核未受精卵が必要になる。（＝女性の身体が資源の供給源となる）（↑肉体的、精神的負担は女性にのみかかる。）

▲排卵誘発剤→副作用

▲不妊当事者の視点

不妊治療＝苦痛（肉体的、精神的、経済的）⇒余剰胚を研究用に提供するくらいなら廃棄するほうがまし。

▲インフォームドコンセント＝医者が全てを患者に伝えているわけではない。

（↑研究者は特許をとればカネ儲け⇒卵子は無償で提供されるから商業利用でないというごまかしはやめるべきだ）

↑これらの議論はほとんどなされていない。

＝セラピューティック･クローンで治療可能な患者の治療が最優先という考え。

また、効率的な（副作用なしの）移植が可能というのは幻想。

⇒体性幹細胞による自家移植のほうがまし。

体性幹細胞＝ES細胞以外の幹細胞で分化増殖する。但し万能の体性幹細胞は容易には得られない。

◆最も大きな問題点

人体組織の商品化・産業利用の流れができ始めていることが知られていない、知らされていない

⇒著者にできることは批判し続けること